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5.大使室から

(3)大使短信

     -45 和服地をアバヤに変えるファッション・クリエーター(「日本の美・イン・マスカット」)  

109日の夜,グランド・ハヤット・ホテルの大広間にはオマーン人を中心に数多くの女性が三々五々集まってきました。その夜は,「日本の美・イン・マスカット:着物の優雅」と題された女性だけのためのファッション・ショーが開催されるからです。その日の主役は,岐阜県出身のデザイナー水谷哲也氏と歌手のマドカさんでした。  

丁度1年ほど前,ある地域の着物業者が日本の着物地を使って中東地域の女性が着用するアバヤをデザインし,ドバイでファッション・ショーを行ったという新聞記事を目にしました。この記事を読んだ妻が同じような企画をオマーンでできないかとインターネットを探っているうちに,水谷氏が経営するコットンタイムのホームページに注目しました。水谷氏は日本の晴れ着や訪問着の布地を使って,これらを見事なウエディング・ドレスや夜会服に作り替えているのです。メールを通じてやり取りしているうちに先方も和服地をアラブ風の装いに変えてオマーンの人々に紹介するという企画には関心があると分かったのです。

着物はジャラビーヤ(アラブ女性の一般的なドレス)と呼ばれる体を締め付けないロングドレスにとても類似点があり,調べて行くうちに着物の美しい柄にオマーン人女性はとても関心があることも分かってきました。アバヤは,一般的には黒がほとんどですが,結婚式などには特別仕立てのカラフルなものも着用することもその過程で知りました。そしてアバヤは黒でも,その中にはとても美しいドレスで装うことも分かり,着物の美しさをオマーンの女性に実際に感じてもらえたら素晴らしいと,話が進んで行きました。  

去る4月水谷氏は事前調査を兼ねてマスカットにやって来ました。町中でオマーン人女性の服装を見ていると,写真で見たり想像していたりしたのとはやはり感じが違ったようです。同時に妻の知り合いの女性たちを通して沢山のドレスも見せてもらいました。そこでいくつかのインスピレーションも得たようです。帰国すると早速作品の制作に取り掛かったとの連絡が入りました。同時に,舞台進行の企画も練られて行きました。ショーの流れを春夏秋冬の4部構成にし,それに合わせて衣装のデザインと音楽を変えるというものです。ファッション・ショー冒頭に新進気鋭の歌手マドカさんが歌うのですが,これにはジャネット・ジャクソンのアルバムを担当したアメリカの音楽プロデューサーの協力が得られ,更にマドカさんの歌に合わせて宮本英喜氏が踊りを振り付けることになりました。  

さて,ファッション・ショー始まる間際には会場の300席は一杯になり,それでも人々が押し掛けるので急遽座席を追加することにしました。ショーは,艶やかなブルー,オレンジ,パープルの錦が織りなすミニドレスを着たマドカさんの歌で始まりました。今流行りのポップ調の歌に加えて,幻想的なアラビア風の曲にベリーダンスの様な踊りが会場を盛り上げていきます。

マドカさんが退場すると和風の調べが春から始まって順番に四季の雰囲気を醸し出す中,舞台の両そでにあるスクリーンには日本の折々の景色が映し出されます。その中を8人のモデルがそれぞれの季節に呼応した色鮮やかな衣装を身にまとい登場するのです。ミニスカートや洋風の夜会服もあるのですが,やはり人々の目を惹き付けるのはアラブ風のロングドレスです。ゆったりとした生地の使い方が蝶や鳥をあしらった大柄な着物の模様を引き立たせます。

       

       

会場の雰囲気が昂揚していく中,フィナーレにウエディング・ドレスが登場した時には感嘆の声が挙がりました。オレンジや緑の和服地が純白のドレスにぴったりマッチするのです。1時間余りのショーは,あっという間に過ぎ去って行きました。  

水谷さんにとってもマドカさんにとっても今回のような国際的な舞台は初体験でした。オマーンでの経験を基に中近東を舞台に足場を築くことができれば,日本の伝統美をその地の人々にも紹介することができます。中東地域,とりわけ湾岸諸国の上流階層にはそれを受け入れるだけの素地と婦人方の財政力もあります。週末の当地紙を飾ったこのファッションショーに関する報道ぶりを見ながら,オマーンの地から改めて彼らに声援を送っています。