5.大使室から
(2)大使挨拶
(ウ)2009年以来の取り組み
オマーンにおける我が国の経済的プレゼンスには大きなものがあります。町中を走る車の多くは日本車ですし,家庭で見かける家電製品にも日本製がたくさんあります。オマーンと日本の貿易は2008年に100億ドル近くに達しピークを記録しましたが,リーマンショックに起因する世界経済の停滞及びそれに伴う原油価格の下落のために2009年には40%減の50億ドル台後半に後退しました。統計的に見ると隣国のアラブ首長国連邦がオマーンにとっては最大の貿易相手ですが,同国を通じる日本製品の再輸出や再輸入もかなりあるため,実質的には依然オマーンにとって日本が引き続き最大の貿易相手であろうと思われます。とりわけ,我が国はオマーンの石油・ガスの約1割を輸入しているほか,イカやマグロといった海産品,インゲン豆などの農産物に加え,最近ではソハール工業港で精錬されたアルミニウムの輸入も増大しています。
他方で,オマーンに進出する日本企業は未だ10社以内に留まっています。在留邦人数も100名程度の小さなコミュニティーです。このような状況の下で,2008年11月に実施した「日・オマーン・ビジネスフォーラム」は主にドバイに駐在する日本企業にオマーン経済の実情を知ってもらう良い機会となりました。これを契機に商談が進む案件もあるようです。再び原油価格が上昇に転じ,オマーン政府の公共投資が活発となる中で,日本企業の中には,今年に入って大型プロジェクトであるソハール・バルカ発電所建設運営事業を受注するものも出てきました。また,オマーン政府のソブリン・ウェルズ・ファンドと連携しながら我が国の製造業をオマーンに誘致するといった意欲的な計画も日本の銀行によって進められています。我が国は,来年から始まる第8次経済開発5カ年計画の策定に向けてJICAによる産業振興や省エネのためのマスタープラン作りを通じて協力していますが,引き続き,オマーンの国造り・人造りに官民を挙げて貢献して行く予定です。幸い,オマーン側でもオマーン商工会議所が日本の経済団体や企業との協力に関心を高めていますので,財界関係者の往来や連携を助長することで相互の関係強化を側面から支援して行きたいと思います。
オマーンとの政治・安全保障面での交流は,近年,著しく深まっています。アデン湾・ソマリア沖における海賊対処活動に従事する海上自衛隊の部隊は主に南部サラーラで補給を受けますが,その回数は2010年8月末で既に14回となっています。これに呼応して,オマーン海軍との関係も深まっています。昨年5月に続いて本年9月にも海上自衛隊の練習艦隊がマスカット港に来訪しますが,その際には親善訓練や若手下士官の乗艦研修が行われる予定であるなど相互の友好協力をさらに深めることとなっています。昨年のバドル外務省事務総長の訪日を契機に始まった両外務省間の政策対話は,本年5月の鈴木外務省中東アフリカ局長のオマーン訪問,7月のアラウィ外務担当大臣の訪日の機会を利用して継続されました。ホルムズ海峡の安全航行は我が国のみならず世界の経済の発展に欠くことが出来ません。同海峡の国際航路帯がオマーン領海内にあることは意外に知られていませんが,この先のペルシャ湾を巡る情勢を睨みつつ,オマーン政府当局との円滑な協力関係を維持していくことが重要と認識しています。
今年は,カブース国王が1970年7月23日に即位して40周年の記念すべき年に当たります。一年を通じて様々な記念行事が行われますが,11月18日のナショナルデーを前後する時期には国を挙げて様々な祝賀行事が計画されています。我が国も一年を通じて独自の記念行事を企画しており,5月に行った「森英恵ファッションショー:東洋と西洋の出会い」は大好評を博しましたが,12月にも「菊の会」の日本舞踊公演を予定しています。オマーン側も冬には我が国で「オマーン週間」を計画している他,日本のある国立大学との間で学術交流を深める興味深いプロジェクトの実現を目指して目下日本側と協議しています。次世代を担う若者の交流促進は相互理解を深めていく上でも重要です。昨年,三菱商事のご厚意により高等教育省の下に奨学基金が設立されましたが,我が国の国費留学生制度と相俟って,高校生を含むより裾野の広い若者の交流に役立っています。
毎月大使館分館で同時代監督の作品を上映する「大使館映画クラブ」は常連を得るまでに定着しました。インターネットを通じて日本語や日本のポップカルチャーに関心を抱くようになった若者が毎回参加するのですが,彼らの視線には熱いものを感じます。今年一年を通し,手作りのチーム編成“WadaikOman”やプロの音楽家からなる“Beat
& Wind from Japanasia”による和太鼓の公演,亀垣一氏のアニメに関する講演などを手がける一方で,3月には邦画「きみの友だち」で我が国として初めてマスカット映画祭にも参加しました。今年後半には,和服を素材にした洋風・アラブ風ドレスの展示会やロボットに関する講演,現代写真展を計画するなど,多様な文化広報活動にも力を入れて行きます。
2008年春のハイサム遺産文化大臣訪日を踏まえて行われているオマーン国立文書館設立への我が国の協力は,この夏にオマーン側関係者が我が国国立公文書館での研修に赴くところまで進展しました。また,長年停滞傾向にあったオマーン日本友好協会の改組についてもオマーン最大の財閥グループ会長や商工会議所会頭を始めとする財界重鎮の参加を得て,新たな活動に乗り出す目処を得るまでになりました。オマーン側の協力を得て,引き続き,幅広い層との交流を促進していきたいと思います。
|